ホビー用のモータでは、「ただ回ればよい」という場合もあり、電源スイッチのON・OFFのみの動作で十分な場合も多く、速度制御は必要ありません。
しかし、モータを使って何か作業をさせようとすると、ほぼ間違いなく速度制御技術が必要になってきます。自動ドア、冷却ファン、プリンタ、エアコン、洗濯機など、身近に使われるモータは適切な制御機能が搭載されているからこそ、求められる機能を果たすことができます。速度制御技術は、モータを利用する際に必須ともいえる技術です。
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DCモータにおける速度制御方法
モータの回転速度は、以下の要因によって決定されます。
- 電流値
- 電圧値
- 負荷トルク
- 逆起電力定数
- 巻線抵抗
これらの値が変化すると、モータの速度が変化します。
このうち、3はモータをどのように使うのか、そのシステムによって決定され、4・5はモータの構造や、構成されている部品種類により、値が決まります。
すなわち、システムに組み込まれたモータの速度制御を行うためには、①②を制御回路によって調整するという形になります(※)。この手法は複数ありますが、それぞれ利点・欠点があり、応答性、安全性なども変わってきます。
※…3・4・5の調整はモータ設計時に行われます。3の負荷トルクを適切に出力できるように、4・5を計算・解析などで算出します。そして、4・5を満たすために磁石の種類や巻線の選定・定数決定を行う、といった流れで、モータの設計は行われます。(これはあくまで設計の流れの一例です)
電圧制御(抵抗制御)
最もシンプルな速度制御方法です。先に述べたとおり、DCモータは印加電圧によって回転数が変化する特徴があり、この特徴をダイレクトに使った制御方法です。直流電源、可変抵抗器、モータをすべて直列につなげば、最も簡易な電圧制御方式が完成します。
電圧を印加して、可変抵抗器の値を変化することで、モータに印加される電圧が変化するので、回転数が変わる、という原理です。
(実際市場で使われる際は、安全性、応答性、汎用性などの面から、より複雑な回路構成となりますが、原理は同じです。)
どの制御方式も基本はこれと同じです。「モータの印加電圧の可変方法」が違う、と考えてもらえると、理解しやすいと思います。
パルス幅変調(PWM)制御(半導体制御)
PWMとはPulse Width Modulationの略です。モータへの電圧印加を連続的なパルス波状に行い、印加電圧を擬似的に変化させる方式です。このパルスの幅(ON・OFF時間)の比率を変化させることで、モータを駆動する平均電圧を変化させ、回転数を制御します。
よりイメージ的に理解するならば、モータの電源スイッチのON・OFFを素早く切り替える動作と同じと考えてください。人間が手動でスイッチのON・OFFを切り替えた場合、どんなに速くスイッチをガチャガチャしても、ONのときに回って、OFFのときに止まる状態にしかならないことは想像できると思います。しかしこれを、もっともっと速く、例えば20kHz(1秒間に2万回)程度の速さでON・OFFできたとすると、モータは止まることなく回り続け、しかし回転数は下がる、といった現象が起きます。
これは、平均電圧がON・OFF動作によって半分程度に下がっていることが理由です(ある瞬間に5V、次の瞬間に0V、を繰り返した場合、平均で2.5Vが印加されている、というイメージ)。このスイッチ動作を制御回路で実現し、さらにON時間・OFF時間を制御することで平均電圧を変化させ、回転数を自由にコントロールできる、というわけです。
PWM方式は回路構成が比較的単純であり、ON・OFF時間の調整が高速に可能なため使い勝手が良く、DCモータでは一般的に使われています。
パルス振幅変調(PAM)制御(半導体制御)
PAMとはPulse Amplitude Modulationの略です。 PWMがパルス幅を変動させるのに対し、PA Mは電圧自体を変動させます。
直流電圧を直接変えるのは、複雑な回路構成が必要になり、コスト面にも影響があるため、PAM方式を採用することは少ないです。高電圧で駆動させるエアコンのモータなどで使われています。
フィードバック制御
速度制御に付加価値をあたえるものです。さらに一段階パワーアップさせるもの、と考えると理解しやすいと思います。しかしながら、速度を正確に制御するにはこのフィードバック制御が不可欠なため、採用の場面は多いです。
フィードバック制御を理解するために、高速道路での車の運転を考えてみます。
速度80km/h付近にターゲットを定め、運転していると想定します。運転手は、スピードメータの値をチェックし、その値が80km/hから下がってきたらアクセルを踏み込み、80 km/hを大きく超えてきたら、アクセルを緩める、という作業を行いますよね。この動作はフィードバック制御に非常によく似ています。この車の運転をモータに置き換えると、下記のようになります。
- 80km/h → 目標とするモータ速度
- スピードメータ → 速度検知センサ
- アクセルを踏む・緩める動作 → PWM or PAM値の調整動作
- 運転手 → フィードバック制御システム
すなわち、フィードバック制御というのは、下記の一連の機能を持ったものとなります。
- 速度検知センサからモータの回転数信号を受けとる
- その回転数が、目標回転数に対し低いのか高いのかを判断
- 目標回転数に近づくよう、PWM or PAM信号を調整する
- 1~3を繰り返し行い続ける
フィードバック制御は、その制御を実現するために速度センサや、PWM or PAM制御機能が必要なのはもちろん、この一連の動作を行わせるためのプログラムが必要になります。プログラムを動作させるには、マイコン等の高価な電子部品が必要となるため、単価にも影響します。
負荷変動がある場所での定速回転が必要な場面で、このフィードバック制御が活躍します。例えばベルトコンベヤはその一つです。ベルトに乗せて運ぶ荷物は、数が増えたり減ったり、重いものが乗ったり軽いものが乗ったりと、負荷変動が激しいことが想像できます。この状況下で一定の速度でベルトを巻き取るには、フィードバック制御が有効です。
もし仮に、ベルトコンベヤにフィードバック制御が搭載していなかった場合、重い荷物を乗せるとベルトの移動速度が遅くなり、何も荷物を載せないとベルトの速度が上がる、といった、非常に扱いづらい挙動となってしまいます。
フィードバック制御を搭載しない場合、回転数の可変自体はPWM・PAMにて実現できますが、これが意味するのは回転数を上げる・下げるという動作指示ができる、のみであり、「3,000rpmで回す」といった数値での指定はできません。定量的な指定を行うためには、フィードバック制御は欠かせません。
電流制御
モータの速度を決定する計算式には、電流値の項目があります。これは、電流値を制御することで関節的に速度制御ができることを意味します。しかし、回路設計において電流を制御することは、電圧を制御するよりも難しく、実現するには複雑な制御回路が必要になるため、速度制御の目的で電流制御を使うことはまれです。しかし一方で安全性確保の目的で付加されることは多くあります。
例えば、フィードバック制御を持ったモータに異物が混入した場合を考えてみます。異物により回転軸がロックしてしまった場合、モータは自分で「異物が入った」とは判断できません。
このときフィードバック制御機能は、単純に目標速度よりも回転数が低いと判断し、回転数を上げようとします。すると内部的には、PWM or PAMの司令が強まり、モータの端子間電圧、電流値を上げつづけ、回転数を高めようとします。結果的に、異常に高い電流値が流れることになります。このとき、電流制御機能が搭載されていない場合、モータの巻線や、電子部品が焼ききれて、ショートを起こし、最悪の場合大きな事故につながりかねません。
こういったことを防ぐために、ある一定の電流値以上は流れないようにする、規定の電流値を超えた場合にエラー信号を出すなどの目的で、電流制御が使われます。
サーボ制御(サーボモータ)
サーボ制御とは、指示された動きを行うことを意味し、高い精度で位置決めができるシステムのことです。サーボ(servo)は、サーバント(servant)=召し使い が語源といわれています。
位置制御、速度制御、トルク制御が可能で、指定された位置に正確に移動・停止、指定速度での回転、指定されたトルクを維持しながら動作、といったことが実現できます。これらは、フィードバック制御により実現しており、より機能を特化させた制御ともいえます。
速度制御におけるブラシ付きDCモータとブラシレスDCモータの違い
最も大きな違いは、ドライバーといわれる駆動回路が必要か否か、という点です。
ブラシ付きモータは、端子に電圧を印加するだけで回転が可能ですが、ブラシレスモータは、ドライバーがなければ、電源があっても回すことすらできません。
「ブラシレス」という文字の通り、「ブラシ」がないため、この機能をドライバーが担っていることがその理由です。これだけ聞くと、ブラシ付きモータのほうが使い勝手が良いように聞こえるかも知れませんが、ブラシレスモータは、寿命が長い、ブラシ整流によるノイズがない、ブラシ交換が不要など利点も多いです。
また、このドライバー回路に速度制御の機能を持たせることもできるので、ブラシレスモータは速度制御機能付きが標準品とされることもあります。
ユニテックは最適な速度のモータを開発・製造いたします
DCモータと速度制御は、切っても切り離せない関係にあります。今回紹介した制御方法は、大きく捉えた分類の紹介でしかなく、実際に使われる制御技術は大変奥が深いです。ユニテックは、過去の技術の蓄積から、お客様に最適な速度制御技術を提供可能です。ぜひお気軽にご相談ください。