モータの逆起電力とは

モータに電圧をかけると、軸が回転します。これこそがモータの機能ですので、誰もがご存じかと思います。では逆に、軸を手で直接回転させると何が起きるでしょうか。意外とご存じない方もいるかと思いますが、このとき、モータは発電機として機能します。発電機として機能しているとき、モータの端子には電圧が発生するので、豆電球をつなげば点灯します。災害時の手回し懐中電灯などは、この原理を利用しています。

実はこの発電機能こそが、逆起電力によってもたらされるものなのです。なお、逆起電力はほかにも、逆起電圧、誘起電圧という表現で表すこともありますが、本コラムでは「逆起電力」で統一します。

「逆」起電力の意味

さて、手動でモータの軸を回したときに発電機能を持つ、と先ほど表現しました。しかし実は、手動で回す以外でも、モータが回っているときには常にこの発電作用が発生します。すなわち、外部電源につないで、モータが高速回転しているときも、発電作用が発生しているということです。

ここで注目したいのは、発電電圧の「方向性」です。回転時の磁場の方向と銅線の移動方向から、発生する電流(電圧)はフレミングの右手の法則で導き出される通り、モータを「止めようとする」方向に発生します。モータに電源をつないで回したとき、必ず電源の印加電圧と逆向きの起電力がモータ内部に発生します。この方向性こそが、「逆」起電力という名前の由来となります。

逆起電力の性質

コイルの巻数をNとしたとき、1箇所あたりの逆起電力は下記の式で表されます。(フレミング右手の法則)

e=NBLrω
e:逆起電力(発生電圧)[V]
N:コイルの巻数
B:磁束密度[T](下図におけるステータによって作り出される)
L:磁界中の電線長[m](磁束に対して交差する方向のコイルの長さ)
r:回転半径[m]
ω:回転速度[rad/s]

よりイメージが湧くように、ブラシ付きDCモータの簡易モデルにて考えてみます。

上記の図のモデルにおいては、コイル巻数N=2となっており、また、N極側・S極側に1箇所ずつ銅線が配置されていますので、このモデルにおける逆起電力の合計は下記のように表されます。

e=2個所×NBLrω=4BLrω

なお、式から示される通り、逆起電力には下記の性質があります。

  • コイルの巻数が多いほど、逆起電力は大きくなる(N : コイル巻数による)
  • 磁石の磁力が強いほど逆起電力は大きくなる(B:磁束密度=磁石の磁力による)
  • 回転数が早いほど逆起電力は大きくなる(ω : 角速度による)

また、モータ個別にN・B・L・rは値が固定であるため、この固定値をまとめて「逆起定数:KE」とし、

e=KEω・・・式(1)

と表記することも多いです。

モータの逆起電力はどんな影響を与えるか

モータの速度の安定

逆起電力の存在があるからこそ、回転が安定する、という効果があります。

例えば、ある電圧を印加して駆動しているDCモータがあったとします。印加電圧を高くしたときを例に、挙動を追って考えてみます。

  1. 電源電圧を上げる
  2. 巻線に印加される電圧が高くなり、電流値が増加する
  3. 電流値が増えたことにより、トルクが増加する
  4. トルクが増えたことにより、回転数が上がる
  5. 回転数が上がると、逆起電力が高くなる
  6. 印加電圧、巻線抵抗値による電圧降下、逆起電力の値の合計値がゼロになるまで(安定状態になるまで)2~5が繰り返される

このようにして、回転が安定状態に落ち着きます。逆起電力は回転数の変動を抑える方向に働くので、急激な回転数変動を防ぐ役割を果たしてくれます。電源電圧の変動に対して、ダンバーのような役割を果たすと考えるとイメージがつくかもしれません。

仮に逆起電力が存在しなかったと想定すると、電源電圧の変動で電流が大きく変動し、回転数が急激に変化すると考えられます。これにより回転数の調整難易度が高くなるなどのことが予想されます。

電流リップル(脈動)の発生

上図のブラシ付きDCモータで考えるとわかりやすいですが、コイルに流れる電流はブラシ・コミュテータ部にて、周期的に向きが変化します。向きが変化する瞬間、電流波形は逆起電力による影響を受け、波形が「なまり」ます。

電流の切り替え1回分を例に上げて、その電流波形を観察してみましょう。電源から供給される電流は、もともと図Aの矩形波ですが、実際にコイルに流れる電流は図Dのような形の波形となります。

説明のために図B、図Cを用意しました。

図Bにて、タイミング①でコイルに電流が上がり始めるとき、「逆」起電力は電流を上がらない方向に働き、波形の最大値は少し削られ、左上の角が丸まったような形になります。

図Cにて、②のタイミングで、電流方向が逆になるとき、電流値は下がっていきますが、ここで「逆」起電力は電流を下がらない方向に働き、波形の最大値は増加し、右上がとがったような形になります。さらに、その影響は波形の根本にも現れ、波形が丸まったようになります。
(これら図は少し極端に記載していますので、イメージとして捉えてください)

この波形の形を脈動(リップル)と呼ぶのですが、この形は、逆起電力が大きく影響します。例えば、ブラシ付きDCモータのステータに使われる永久磁石がものすごく強力なネオジム磁石だった場合。逆起電力は非常に大きくなり、波形は大きく崩れ、回転の滑らかさが失われガクガク回るようになります。

回転中に大きな振動が発生したり、波形の後ろの尖りが大きく出たりすれば、電流ノイズとして制御回路に悪影響を及ぼします。このように、モータとして滑らかな回転を実現するには、逆起電力を考慮することが非常に大切といえます。

モータ停止時における電源への影響

逆起電力は、「変化を妨げる方向に働く」ということが、先ほどの電流波形の「なまり」からわかりました。ここでは、この特徴が顕著に現れる場面を紹介します。それは、モータの急停止時です。

モータ停止時、逆起電力は、回転がゆるやかに停止する方向に電圧を発生します。この際、大きな問題は起きにくいですが、急停止した場合はどうなるでしょうか。

急停止時、逆起電力はその急な変化を妨げようと、モータの回転を促す方向に大電流を発生させます。この大電流は、ドライバ回路や、電源回路を損傷する恐れがあり、無視できない問題となることが多々あります。

この電流を適切に処理するために、保護回路の搭載が多くの場面で必要となります。

トルク定数との関係    

逆起電力定数は、トルク定数と密接な関わりがあります。その関係を説明するために、まずトルクの計算式を算出してみましょう。

コイルの巻数をNとしたとき、1箇所あたりに発生するローレンツ力Fは下記の式で表されます。(フレミング左手の法則)

F=NBLI
F:ローレンツ力[N](コイルに電流を流したときに発生する力)
B:磁束密度[T]
L:磁界中の電線長[m](磁束に対して交差する方向のコイルの長さ)
I:電流[A]

上記の図のモデルにおいては、コイル巻数N=2となっており、また、N極側・S極側に1箇所ずつ銅線が配置されていますので、このモデルにおけるローレンツ力の合計は下記のように表されます。

F=2個所×NBLI=4BLI

さらに、これをトルク値として表現すると、(トルク=力F×距離r)

T=4BLIr

また、モータ個別にN・B・L・rは値が固定であるため、この固定値をまとめて「トルク定数KT」とし、

T=KTI ・・・式(2)

と表記することも多いです。
ここで、式(1)と式(2)における、KEとKTの要素を改めて確認してみます。

KE=4BLr
KT=4BLr
→すなわち、KE=KT

そうです、逆起電力定数と、トルク定数は同じ値であるということになります。

トルクを増やすことは逆起電力を増やすことと全く同じことであり、逆起電力の設計は、トルクの設計にほかなりません。これを理解しておくことは、モータ設計者にとっても、モータユーザにとっても、非常に重要であるといえます。

モータの逆起電力を積極的に利用する方法

回生ブレーキ

車やモータ停止時の、惰性で回転しているエネルギーを回収する技術です。車であれば、ブレーキ時に回転しているタイヤで発電機を回すことで、バッテリーの充電を行うと同時に負荷を与えることになるのでブレーキの役割を持たせられます。ブレーキ機能と同時に惰性のエネルギーを有効活用しています。

発電機として利用

発電機として一番わかりやすいのは、冒頭で紹介した手回し懐中電灯です。外部からの力でモータを回転させることで、逆起電力を発生させ発電機として動作させる仕組みです。

また、火力発電や水力発電も、同じ原理を利用しています。火力発電では燃料を燃やした熱で水から蒸気をつくり、蒸気を巨大なタービン(羽根車の回転)に勢いよくぶつけて回すことで発電機を回します。水力発電は、高い所に貯めた水を低い所に落とす力を利用して水車を回し、水車につながった発電機を回転させることにより電気を生み出しています。

速度制御時の計算に逆起電力定数を利用

モータにベクトル制御などの高度な制御技術を組み込む場合、逆起電力定数を事前に求めておき、内部計算式に組み込むなどの使い方もされます。モノづくりの現場では、電力効率の良い制御方法が日々求められており、よりよい制御を突き詰めていくなかで逆起電力も重要な位置づけとなっています。

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