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ブレーキ付きモータとは
モータを使って様々なシステムを構築していると、「回す」だけでなく、「止める」ことが必要になる場面があります。外部機構でブレーキ機能を実現することはもちろん可能ですが、追加機構を配置するスペースが必要になります。これは、部品点数が増えるため、コストアップにつながりますし、設計作業の終盤でブレーキが必要になった場合はそもそもスペースを確保できないこともあります。こういったときに活躍するのが、ブレーキ付きモータです。
ブレーキ付きモータは、モータの回転を急停止させるための機能が備わったモータです。特に重い機械や、安全が求められるシステムにおいて、必要になる場面が出てきます。すべてのモータにブレーキが標準で装備されているわけではありません。様々な種類のブレーキが存在し、用途に応じて使い分けがされています。
ブレーキ付きモータの仕組み
ブレーキの種類
ブレーキ付きモータにおけるブレーキには、大きく分けて3種類あります。
1. 電磁ブレーキ
みなさんがイメージする、いわゆる「ブレーキ」の仕組みに一番近いものだと思います。机の上を転がるビー玉を手で止めるのと同じ原理で、回転体にブレーキパッドを押し付けて、その摩擦力により停止させる仕組みです。ブレーキパッドの制御機構に電磁石を用いているため、電磁ブレーキと呼ばれます。
2.ダイナミックブレーキ
モータ特有の逆起電力を利用したブレーキです。モータは、電源をいれると回転運動を行いますが、内部では逆起電力というものが発生しており、常に回転方向とは逆向きに力が働いています。モータの電源をOFFにしたとき、この逆向きの力である逆起電力をフルに利用してブレーキをかけるのが、ダイナミックブレーキです。
3.回生ブレーキ
モータは電気を流すと回転力を生みだします。ですが反対に、外部の力を使って軸を回転させると、電気を生み出す発電機として使うことができます。この発電機としての使い方を利用したものが、回生ブレーキです。実はこの発電機能は逆起電力によって発生しているものですので、得られる結果は違いますが、原理的には2のダイナミックブレーキと類似したものとなります。
ダイナミックブレーキは回転エネルギーをそのままブレーキ力に消費します。(回転エネルギーを100%ブレーキに使う)しかし回生ブレーキは、回転エネルギーを例えば50%ブレーキに使って、50%回収するといった割り振りになるため、ブレーキ力は低めになります。
どちらかというと、エネルギーの回収が目的の技術であり、ブレーキはその副産物と考えておくとよいかと思います。
ブレーキ付きモータの基本構造と動作
次に、各ブレーキの構造を見ていきましょう。
1.電磁ブレーキ
様々な形がありますが、ブレーキディスク型の構造を一例として挙げて説明します。
構造
- モータ回転軸にディスクが取り付けられている
- ディスクの対面部分に、ブレーキ機構が設置されている
- ブレーキ機構は、回転軸とは独立しており、回転しない
- ブレーキ機構の内部には、ブレーキパッド、スプリング、電磁石が設置されている
- 電磁石のON・OFFでブレーキパッドが可動する。これにより、ディスクとブレーキパッドが触れる
- 離れるを制御できる
動作
- モータ通電時、電磁石はONされ、磁力の力でブレーキパッドが電磁石に引きつけられ、ディスクから離れる
- モータ無通電時、電磁石はOFFされ、ブレーキパッドがスプリングの力でディスクに触れ、ブレーキ機能が発生する
上記の機構が、モータ回転機構に合体される形なので、ブレーキなしのモータよりもサイズが大きくなります。
2.ダイナミックブレーキ
モータ電源OFF後に、電源からの電圧供給がない状態でモータ内部の電流の流れを制御することが必要なので、コンデンサを搭載した電子回路が必須となります。ブラシレスモータには、もともと電子回路が搭載されているため、ダイナミックブレーキとの相性が良いといえます。電子部品を数点追加、内部プログラムの変更などで実現可能なので、コストへの影響は少なくて済みます。
構造
- 電子回路を搭載
- モータ内部のコイル電流の向きを制御可能な電子回路が必要
- 電子回路にはコンデンサ搭載(電源OFF後、数秒間電子回路を機能する目的)
動作
- モータ電源OFF、正回転の推進力が停止し、惰性で回転
- モータ内部のコイルの始点・終点がつながるように電子回路が働く(コイルをショートさせる)
- 逆起電力が働き、惰性回転にブレーキがかかる
コイルをショートすることで発生するブレーキなので、ショートブレーキとも呼ばれます。
3.回生ブレーキ
ダイナミックブレーキ同様、モータ電源OFF後の動作のコントロールを必要とするブレーキです。電子回路はもちろん、回収したエネルギーを保存するシステム(バッテリーやコンデンサなど)も必要となります。
構造
- 電子回路を搭載
- モータ内部のコイル電流の向きを制御可能な電子回路が必要
- 回収したエネルギーを別目的で使うためのシステムが必要(電源OFF後、数秒間電子回路を機能する目的)
動作
- モータ電源OFF、正回転の推進力が停止し、惰性で回転
- モータ内部のコイルが、外部システムとつながるように電子回路が働く(発電機として機能する状態になる)
- 発電に回転エネルギーがつかわれ、惰性回転力が抑制される形となり、結果、ブレーキ力が発生する
それぞれのブレーキの原理
1.電磁ブレーキ
原理的には難しくはありません。ポイントは、外部に設置された電磁石です。モータの回転は、内部に設置されたコイルに電流が流れることによる、電磁石の機能が利用されていることは、多くの方がご存じだと思います。電磁ブレーキは、これと同じ電磁石を応用したものです。
「コイルに電流を流すと磁石になる」という電磁石の性質を使って、電流のON・OFFでコイルの磁石機能のON・OFFを切り替えます。磁石機能がONとなったとき、ブレーキパッドを引きつけ、回転軸を開放します。磁石機能がOFFとなったとき、ブレーキパッドを引きつける力がなくなり、スプリングによってブレーキパッドは回転軸に接続されたディスクに押し付けられ、ブレーキがかかります。
2.ダイナミックブレーキ
より詳しく原理を理解するために、まずはこちらの記事をご覧いただけると良いと思います。
モータが駆動しているとき、電源電圧・巻線抵抗の電圧降下・逆起電力が釣り合った状態となっています。電源をOFFにすると、惰性でモータは回転しますが、この回転により逆起電力は発生しつづけます。電源をOFFにした際、電気回路は一部切り離された状態となり、電流の流れる道が遮断され、電流は流れません。この場合、発生している逆起電力が仕事をすることはなく、だんだん回転が遅くなり、同時に逆起電力もなくなり、やがて止まります。これがいわゆる普通のモータが停止する様子です。
この停止時の逆起電力をうまく働かせることでブレーキを発生させるのが、ダイナミックブレーキです。逆起電力がその名の通り逆方向の力を生じさせるには、電流が流れることが必要です。電流は、その流れる道が1周つながった状態でなければ流れない性質があります。そこで電源OFF時、電子回路により、モータ内部のコイルの始点・終点をつなぐ処置をすることで、コイルの中で電流が循環する道が形成され、逆起電力によって電流が流れます。このとき、電流の流れを発生させる要素は逆起電力しか存在しませんので、電流がそのままブレーキとして機能することができます。
3.回生ブレーキ
2の説明の中で、逆起電力によって電流を発生させるには、電気が流れる道の形成が必要と説明しました。2では、単純にコイルをショートしただけでしたが、この道の中に、バッテリーを配置し、発生した電流をバッテリーに溜められるようにすると、回生ブレーキとなります。
ブレーキ付きモータのメリット
安全性の向上
モータを急停止させる必要がある緊急時や、外部から見えない場所で稼働しているモータを停止する際などに、安全性の向上が見込めます。緊急停止後に惰性回転を続けてしまっては、事故を防げなくなりますので、このときのブレーキが有用であることは明らかですね。
では、外部から見えていないモータを停止する場合。例えば大型サーバの中では、高速で回転するファンモータが搭載されていることが多いのですが、外からはその回転状態は目視確認できないことが多いです。しかしこういった大型サーバは、メンテナンスなどで内部に手を入れる(言葉通り、人の手を突っ込む)場面が比較的多くあります。電源OFF直後に、ファンが惰性で回転を続けているところに、もしも指を入れてしまうと、大怪我につながる恐れがあります。
こういったことを想定して、ブレーキ機能を有しておくことで、安全性の向上が図れます。
停止精度の向上
モータの用途としては、連続回転ではなく、場面場面で停止して使う用途もあります。例えば、製菓工場などで、ベルトコンベヤでお菓子が運ばれる様子をテレビなどで見たことがある人もいらっしゃると思います。このとき、検査や追加作業を行うためにベルトコンベヤが一瞬停止して、またすぐ動く、といった様子が見られたのではないでしょうか。自動化されている工程では、この停止位置の精度が非常に大事になってきます。こういった場面で、ブレーキ機能が活躍しています。
負荷がかかった状態での保持力
ここまで、「ブレーキ」という言葉を「動いているものを止める」という意味で使ってきました。ですが「ブレーキ」はもう一つ、「保持力」という意味で使うこともあります。その意味での有用性を紹介します。
保持力を理解するために最もわかりやすい例は、車のサイドブレーキです。車を傾斜地に止めても、サイドブレーキによる保持力のおかげで、車を停止させることが可能ですよね。このブレーキは、「動いているものを止める」というものではなく、「動かないようにする」という目的のブレーキであり、保持力という言葉で表現されます。
サイドブレーキ自体は、モータで実現しているものではありませんが、モータにおいてもこの保持力としてのブレーキ機能が利用される場面があります。
例えば、エレベータの稼働にはモータが使われていますが、このモータには電磁ブレーキが採用されています。ではどのようなときに保持力が発揮されるかというと、停電などで、電気の供給がなくなったとき。もしも、エレベータのブレーキ機能がなくなってしまったら、屋上から1Fまで落下するといったことが起きてしまいます。そういったことがないように、電磁ブレーキが採用されています。
お伝えしてきたとおり、電磁ブレーキはコイルに電流を流すことで、ブレーキが開放される仕組みですので、電気の供給がなければ、ブレーキ力が発生した状態となります。これが保持力となって働き、安全装置としての機能を果たします。
※緊急時の手動ブレーキ
保持力としてのブレーキは、別の視点でみると「電気が使えなければブレーキが外れない」という、状況によっては大変困るものになりかねません。こういった状況を回避するために、手動解放レバーが搭載される場合もあります。電気的な信号を必要とせずブレーキ解放を行えるよう、ブレーキが機能している状態でもレバーを引くことで、その制動力が解除される機構です。
ブレーキ付きモータの選び方
使用環境に応じた選定基準
ダイナミックブレーキ・回生ブレーキは、電磁ブレーキにあるような保持力を持っていません。逆起電力を利用しているものなので、逆起電力が発生するモータ回転時にしか、ブレーキ力は発生しません。また、ダイナミックブレーキは回転数に比例したブレーキ力を発生するため、非常に強いブレーキ力になります。例えば扇風機の最大回転を2~3秒で停止させるほどなのですが、完全停止すれば逆起電力はなくなり、ブレーキ力はゼロとなるので、保持力はありません。停止後は指で簡単に空転が可能です。
各種ブレーキの特徴を加味して、適切なものを採用することが大切となります。
必要なトルク、速度、制御精度の要件
ブレーキが必要となる場面は、安全面や、緊急時を想定した場合や、システムの根幹を担う精度設計を求められることが多いので、必要なスペックの明確化が重要です。保持トルク、停止までに必要な時間、求められる精度などを考慮して、ブレーキを選定することが求められます。
サイズや設置場所における注意点
電磁ブレーキは、その機構がモータに合体される形となりますので、モータとしてのサイズはアップします。一方、ダイナミックブレーキはほとんどサイズに影響しないことが多いですが、保持力はありません。設置場所のスペースと、必要機能を事前に見極めることが大切です。何も考えずシステムを設計し、後から「電磁ブレーキが必要だ!」となっても、既に全体のシステム設計が完了しており、ブレーキ付与のためのスペースを確保できなくなってしまう、といったことにならないよう、注意が必要です。
ユニテックはお客様の用途に合わせたブレーキ付きモータをご提案します
お客様の用途をお聞かせくだされば、必要なブレーキが何であるか、どうやって実現するのかなど、最適なご提案をいたします。システム設計初期段階での検討が重要ですので、ぜひお気軽にご相談ください。