今回は、ACモータ制御に欠かせないインバータについて解説します。インバータの役割は、「入力された交流の電圧・周波数を可変して出力する」というものです。ACモータは、入力電圧・周波数によって回転数・トルクを可変することができますので、インバータはACモータの制御装置として使われています。

混乱することがないよう、ここで一つ細かな部分を説明しておきます。インバータは、広い意味では上記の意味で使われますが、別の意味で使われる場面があるため、その点をお伝えしておきます。

インバータの対になる言葉として、「コンバータ」という言葉があります。この2つを同時に使うときは、下記の意味で使われることを知っておくと安心です。

  • コンバータ:交流を直流に変換
  • インバータ:直流を交流に変換

いわゆるインバータ装置は、入力された交流を直流に変換するコンバータ回路、そしてその直流を欲しい電圧・周波数に変換するインバータ回路とで構成されています。周波数・電圧を可変させるためには、一度直流に変換する工程が必要なため、このような構成となっています。すなわち、コンバータとインバータの機能を併せ持つ機器をインバータ(装置)と呼んでいる、ということですね。

本記事では、インバータという言葉はこの2つの機能を併せ持つ「インバータ装置」としての意味で使います。ご理解いただけると幸いです。

インバータでできること

ACモータの回転数制御と周波数可変

モータの回転数は、内部を流れる電流方向を切り替えるスピードで決まります。ACモータの場合は、交流の周波数が電流方向の切り替えスピードそのものとなりますので、周波数を可変することができれば、回転数の制御が可能となります。また、トルクは電圧により可変が可能ですので、インバータの使用によりACモータの汎用性が高まることが理解できると思います。具体的にどんな制御方式があるのかをみていきます。

電圧と周波数の制御

V/f制御(スカラー制御)

モータ回転中、内部では周波数に合わせ、コイル電流の流れる向きが切り替わっています。インバータを使い周波数を上げると、この切り替え速度が上がり回転数が上がります。しかしただ周波数を上げるだけの場合、コイルによって発生する磁束は、周波数変更前よりも低下します。

周波数を上げれば上げるほど、コイルのインダクタンス成分(電流の立ち上がりを阻害する効果)の影響が強くなるため、電流の発生が遅れ、結果的に電流値が下がり磁束は低下する、というわけです。この結果、回転数が上がるほどにトルクが下がるという現象につながります。

V/f制御は、これを解消するための制御法です。電圧と周波数の比率(V/f比)を一定に保つ(=周波数が上がったら電圧も上げる)ことで電流値の低下を防止し、モータの磁束を一定に維持、トルクを保ち、回転数が上がってもトルクが下がらないように制御できます。シンプルな構造であることもあり低コストで実現可能ですが、応答性が遅く、負荷変動に弱いのが特徴です。

ベクトル制御

V/f制御よりもさらに精度が高く、電力効率も高い制御が、このベクトル制御です。コイルによって形成される回転磁界をリアルタイムに計算し、トルクに寄与する電流と、磁束を発生させるための電流とに分けて個別に制御する方式です。

マイコン等による非常に複雑な演算処理が必要でコストも高く、設定やチューニングがうまくできないとスムーズに回転することもできない高度な制御ではありますが、しっかり作り込めば大変電力効率の高い、誤差の少ない高精度の運転が可能です。負荷変動にも強く、素早い応答性が実現できます。

インバータ駆動モータの利点

回転数(スピード)の柔軟な制御

ACモータは、電源周波数で回転数が決まるので、コンセントから給電する際は50Hz/60Hzで回転数は固定されてしまいます。ここにインバータを導入することで、回転数変更が可能となります。昨今、モータはさまざまな用途で我々の生活になくてはならない要素となっていますが、モータが普及した要因の一つは回転数が変えられる点にあると思います。

エアコン一つとっても、風量が変えられるのが当たり前。これは風を送り出すファンモータの回転数を変更することにより実現しています。回転数可変は、今やモータを扱う業界では必須機能ともいえます。インバータによる回転数可変機能は、とても有用なものなのです。

起動時の衝撃低減(ソフトスタート)

インバータを使うと、低い電圧・低い周波数から徐々に加速、同様に徐々に停止することができるため、モータの起動・停止をゆっくり行えます。このソフトスタート動作はさまざまな場所で活用されています。エレベータでは急加速・急停止を抑えた滑らかな動きで、乗っている人の快適さを実現。物流業界のベルトコンベヤでは、適切な移動スピード調整による搬送荷物の荷崩れ防止など、スピード調整を滑らかに行うことで衝撃を低減する使い方ができます。

トルク制御の自由度

ベクトル制御を用いることで、非常に柔軟なトルク制御ができます。クレーンやホイストなどにも使われており、重量物搬送時の負荷変動にも対応可能です。ロボットアームの正確な力加減の実現にも一役買っています。

省エネルギー効果

回転数が可変できるということは、最適な回転数での使用が可能ということです。これを省エネの観点で考えると、従来無駄に高速回転していたモータの回転数を落として使えるということ。ACモータは回転数が電源で決まるために、インバータ導入の有無で、省エネ面に大きな差をつけることになります。

一つの例を挙げると、大型工場などで使われる排水用の大型ポンプ。インバータ導入前は、ポンプモータの回転数調整ができないために、流量調整はバルブによる開口率調整で行うことが一般的でした。ポンプで水をどんどん流しておきながら、弁で流れを抑えるという非常に不自然な状態です。インバータ導入によるポンプの回転数調整が実現されたことは、当時としてみれば画期的なことだったと思います。

このように必要以上にモータを回転させないことは、現代のサステナブルな社会には必須となる当たり前の技術といえます。

インバータとモータドライバの違い

モータ制御においては、モータドライバという言葉がよく聞かれると思います。このモータドライバも、インバータと同様に回転数やトルクを調整する機能を持っています。では、両者の違いは何か?確認していきましょう。

対象とするモータの種類

インバータは、ACモータに使われます。AC電圧を出力するので、DCモータには使うことができません。一方、モータドライバはさまざまな仕様が存在しており、ACモータ用のドライバもあれば、ブラシ付きDCモータ用、ブラシレスDCモータ用、ステッピングモータ用などがあります。

とはいえ、モータドライバというと、基本的にはDCモータ用のものを指すことが多く、インバータの比較対象として挙げられることも多いです。本項目では、両者の比較のため、以降のモータドライバはDCモータ用として説明します。

電源と出力の形態

インバータの電源はもちろんAC電源です。出力もAC電圧です。一方モータドライバの電源はDC電源で、出力は仕様によりさまざまな形をとります。

  • DCブラシ付きモータのドライバ:PWM制御のスイッチングDC電圧を出力
  • ブラシレスDCモータのドライバ:三相交流を出力
  • ステッピングモータ用のドライバ:パルス波形を出力

ドライバの機能はその仕様によりさまざまであり、さまざまな形の出力がなされます。このことから、DCモータの制御機能が豊富であることがわかります。

応用分野の違い

インバータは比較的大きな出力が必要なシステムに使用され、モータドライバは小型・精密な制御が必要な用途に適用されることが多いです。下記に具体例を挙げます。

インバータが使用されるシステム(ACモータの用途)

  • 大型ポンプ、ダクト用大型ファン、エアコン、EV自動車用モータなど
  • モータドライバが使用されるシステム(DCモータの用途)
  • 小型搬送機、掃除機、電動工具、扇風機、ワイパー、ドローンなど

ACモータが大型装置に使われることが多い理由として、大電力に適した電源供給がしやすい点や、連続運転の耐久性に優れるという点があります。

大型装置は、大電力を扱う必要があるため、大電力の供給が容易な三相交流(AC 200V / 400V など)を電源に使うことが一般的です。ACモータは、こうした高電圧・大電流の電源を直接接続できるため、相性がよいのです。

また、ACモータは構造がシンプルで、過熱や摩耗の問題が少ないため、長時間の連続運転に適しています。例えば、1日中稼働しつづけることが必要な工場のコンベア、ポンプ、ファンなどには、耐久性の高いACモータが適しているといえます。

特に誘導モータは、ローターに電磁誘導で電流が流れることにより回転しますが、その電流は小さく、DCモータのようにコイルに直接大電流を流すわけではないため、発熱が少ないです。また、回転子は単なる導体(アルミや銅のバー)で構成されるかご形構造が一般的であり、空間に余裕があり、熱がこもりにくい構造になっています。

こういった理由から、ACモータ・インバータ、DCモータ・モータドライバの棲み分けがなされています。

制御アルゴリズムの違い

インバータにおいてもっとも特徴的な制御は、先にも挙げたV/f制御です。AC電源の特徴から生まれた制御方式なので、DCモータには使われません。その他、PWM制御、フィードバック制御、ベクトル制御などは、インバータでもモータドライバでも使われます。ただ、その扱いやすさから、インバータにおいてはベクトル制御が、モータドライバにおいてはPWM制御が使われる割合が多いです。

交流は電圧・電流の可変が比較的難しいため、精度高く制御するためには複雑な仕様が必要となります。インバータにおいてそれを実現するためにベクトル制御が選択される傾向にあります。

一方直流は、電圧や電流の調整が容易なため、シンプルな回路でも比較的精度良く制御が実現できます。ベクトル制御を盛り込めば、より効率良い回路となりますが、コストに見合わない状況も多くあり、結果的にPWM制御の採用に落ち着くということが多いです。

モータードライバーに関しては以下の記事もご参照ください。
DCモータドライバーとは|主な役割と種類を解説

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