一般的に電気機器の寿命と聞くと、「壊れた」「動かなくなった」という状態をイメージするかと思います。しかし実際は、動いていても求める性能が出ていなければ、使える状態とはいえません。この状態を「寿命を迎えた」と表現することが多々あります。
例として、スマートフォンをイメージしてみてください。数年使い続けていたら、バッテリーの持ちが次第に悪くなった、という経験をされた方もいらっしゃるかと思います。頻繁に充電しなくてはならない状態に我慢できず、新しいものへ買い替える、状況も少なくないでしょう。
これはまさに、壊れたとはいえないものの、求める性能が出ていない状態です。スマホが寿命を迎えた、と言い換えることができると思います。
(スマートフォンに詳しい方の中には、「バッテリーを交換すればよいではないか」と反論される方もいるかもしれません。その考え方については、当記事の「保守管理」の項目に該当するものとご理解いただければと思います。)
これはモータにおいても同様で、定義された性能が出なくなった状態を「寿命」と表現します。モータの寿命は、様々な条件によって長くなったり短くなったりします。どのような条件が寿命に影響するのでしょうか。
Contents
モータ寿命の要因
使用条件
モータをどのような条件で使うかによって、寿命は大きく変動します。
- 負荷の大小による内部発熱量の変動
- 運転時間や回転数による摩耗スピードの変動
- 正転・反転の頻度による接点部の劣化度合い
上記のような要因が寿命へ影響しますが、基本的には使用条件が過酷であればあるほど、寿命は短くなります。
環境条件
モータが設置される周辺環境も、寿命に影響を与えます。
- 温度・湿度による部品劣化速度の変化や金属部品のサビの進行
- 塵埃が内部に入り込むことによる回転部品の損傷や摩耗
電子部品が組み込まれたモータの場合、埃と高湿度の環境にさらされると、堆積した埃が湿気を帯び、回路がショートすることで寿命を迎える場合もあります。
保守管理
定期的なメンテナンスは、寿命管理に重要となります。
小型モータの場合は、メンテナンスというよりは寿命を迎えたら新品に交換する、といった対応を取ることが多いです。しかし人間よりも大きなサイズの大型モータになってくると、ちょっと話が変わります。丸ごと交換ということがコスト的にも時間的にも難しいこともあり、下記のようなメンテナンスを行うことがよくあります。
- 軸受の交換・清掃・グリスアップ
- オーバーホールによるモータ内部の部品交換・清掃
大型モータは、こういったメンテナンスを行うことが前提で設計されているものもあります。
製造品質
寿命設計を行うに当たり、部品設計や製造品質管理は、大変重要となります。
事前にお客様から長寿命の要望を頂いた場合は、その要望を満たすために特別な構造を採用したり、通常とは異なる製造工程を追加したりすることもあります。
先に挙げた使用条件、環境条件、保守管理をお客様からヒアリングし、それに合わせた製品設計、製造工程設計、品質管理設計を行います。具体的には下記のような対応があります。
- 強度や対応温度などを考慮した最適な部品選定
- ワンランク上の寸法管理
- 組み付け精度のチェック
- 組み立て工程内での抜き取り検査
- 通常出荷検査に加えて特殊検査を追加
要望を満たすために上記のような専用の対応を行うこともあります。
モータの寿命を計算する方法
寿命に影響する部品
寿命を計算するためには、「劣化するとモータの性能に直結する部品」を考えることが重要です。該当する部品をピックアップし、それぞれの部品の寿命を計算、最も短い寿命時間をそのモータの寿命時間と考えます。
一般的に、「モータの性能に直結し、かつ劣化が早い部品」は、
- カーボンブラシ
- 軸受
- コンデンサ(電子回路搭載モータの場合)
の3つが挙げられます。
これらの寿命を計算し最も短い時間を、そのモータの寿命時間と考えます。
(ブラシレスモータや、電子回路非搭載のモータもあるため、その場合は軸受寿命のみを考慮します)
実際の計算方法
先に挙げた、3つの部品で考えてみましょう。
1. カーボンブラシ寿命
ブラシは、回転軸に機械的に接している部品で、電気信号の伝達の役割を持っています。ブラシが寿命を迎えると、電気信号がうまく伝わらなくなり、回転が止まってしまいます。
回転軸に接していますので、常に摩耗が発生しています。寿命計算は、どのくらいの速度で摩耗が進むのかがポイントとなります。回転速度、運転時のブラシの温度などで摩耗速度は変化しますので、計算のみで容易に算出できる、といったものではありません。必ず、耐久試験などの根拠となる試験データをもとに、メーカ独自のパラメータを設定するなどして導き出された寿命計算式をもとに計算されます。
2. 軸受寿命
軸受には様々な種類があります(焼結軸受、ボールベアリング、流体軸受など)。ここでは最もメジャーな軸受であるボールベアリングを例にして考えてみましょう。
ボールベアリングには、以下の2つの寿命モード(2つの壊れ方)があります。
- 疲れ寿命
- グリス寿命
疲れ寿命とは、内部にあるボールの摩耗による寿命です。
疲れ寿命を迎えると、ボールがうまく回らなくなり、軸に高負荷を与えてしまったり、軸が回らずロックしてしまったり、異音を発生したりします。
グリス寿命とは、内部に封入されたグリス量の低下による寿命です。
グリス寿命を迎えると、疲れ寿命ほどではないですが、軸に高負荷を与えてしまったり、異音を発生したりします。
疲れ寿命は、ボールベアリングメーカに使用条件を提示することで、計算で算出が可能です。ただ、その使用条件はモータの内部構造のパラメータが必要なため、設計者による算出が必要です。
グリス寿命も、モータの内部構造が影響しますが、計算のみでは算出ができません。必ず耐久試験などを実施し、その結果をもとに計算式を導き出し、決定します。
3. コンデンサ寿命
コンデンサが寿命を迎え、機能しなくなった場合どういった症状になるか。これは、その周辺回路によって変わります。
コンデンサ寿命を迎えても、発火や事故につながらないような回路設計をしておく必要があるといえます。コンデンサ寿命の計算は、電子部品メーカが計算式を公表しているため、それをもとに算出が可能です。ただし計算に必要な値の一部は、モータ現物をつかって測定する必要があります。
以上から、寿命計算には様々な試験と、計算が必要なことがわかると思います。
モータの寿命を延ばす方法
ブラシ、軸受、コンデンサ全てに共通することとして、「温度上昇が寿命を短くする」という点があります。これを考慮すると、以下の方法が寿命を延ばすために有効です。
ブラシ付きモータの場合
ブラシの摩耗・温度上昇を抑えることで寿命を延ばすことができます。その手段としては下記が挙げられます。
- 摩耗しにくい部品を選定する
- 高効率駆動を実現したり、過負荷での駆動を避け、内部発熱を抑える
(これによりブラシ部の温度上昇を抑える) - 正転・反転駆動頻度を抑えることで摩耗を抑える
ブラシレスモータの場合
軸受、コンデンサの温度上昇を抑えるために、下記が有効です。
- 高効率駆動を実現、過負荷駆動を避けること(ブラシ付きモータと同様)
- 起動時の急激な速度上昇指令を抑える
急な速度上昇は、瞬間的に大きな電流が必要となります。これは結果的に、内部発熱量の急上昇につながるため、寿命に対しては悪影響となります。 発熱を抑えるにはどうすればよいかを考えていくと、寿命を伸ばすことができます。
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