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モータのノイズとはどのようなものか
モータを含む電気機器においては、様々な現象において正常な動作を阻害するものを「ノイズ」と呼びます。「ノイズ」は、直訳すると「雑音」です。雑音は「聞きたい音を阻害する音」であり、ないほうがよいもの、です。同じく電気機器においても、ノイズはないに越したことはなく、ノイズがあるために正しい信号を送信できず、誤作動を起こすといったことも起こります。
具体的には、音・振動・電気信号における邪魔者をノイズとして扱います。音一つ取ってみても、様々な要因が重なって異音となって現れます。
モータにおいて許容できないレベルのノイズが発生すると、
- 正常に回転しない
- 寿命が短くなる
- 必要なトルクを出力できない
などが発生し、重大な不具合につながることもあります。ノイズは目で確認できない現象も含まれます。「正常に作動しているな」、と思っても、電流波形におかしなノイズが乗っていて、制御回路に悪影響がありあっという間に寿命がきてしまった、といったことも起こり得ます。
設計時にしっかりケアしておかないと、ご購入いただいたお客様側でトラブルになってしまうため、入念な設計・測定確認が大切になります。
モータノイズの主な原因
機械的要因
摩耗
モータは回転体ですので、回転体と接触する下記のような箇所は摩耗が発生します。
- ブラシ付きモータにおけるブラシの摩耗
- 回転軸と軸受との間の摩耗
- ギアボックス内のギヤ同士の噛み合わせによる摩耗
摩耗することが前提となっている箇所は、使用環境・条件を考慮して、材質選定や寸法公差などを適切に設定することが重要です。これを怠ると、摩耗が進行し、やがてガタガタと異音を出し、振動しながら回転が起きるなどを経て、想定よりも早く寿命を迎えることにつながります。
振動
回転体の状態や、回転を生み出す要素のバランスが悪いと、振動を引き起こします。
- 回転体の重量に偏りがある
- 永久磁石の磁力が強すぎる
- コイル内の電流方向を切り替えるタイミングが早すぎ or 遅すぎ
スマホのバイブレーションは、回転体の重量に偏りをもたせ、振動を発生させています。このように振動を積極的に利用するのであれば、振動を織り込んだ設計をすればよいですが、そうでない場合は悪影響を及ぼす要因となります。また、振動に伴い異音が発生することも少なくありません。小さな異音を発見したら、原因を確認し、設計段階で潰しておくことが重要です。
構造の問題など
部品単体では問題なくとも、モータ全体の構造によって、さらにはお客様のシステムの構造によって、問題が発生することもあります。
- 特定の環境下で共振が発生
- 特定の環境下で摩耗が発生
- 特定の環境下で干渉が発生
特に共振問題は、メーカの試作時では問題なかったものが、お客様のシステムでテストを行った際に初めてわかる場合もあります。このことから、お客様との使用環境のすり合わせが大切であることがよくわかります。高温環境に長時間さらされた際にある部品が膨張することで、回転体と接触し摩耗・干渉が起きる、といったこともあり、メーカの最終試験では、あらゆる状況を想定した試験が行われています。
電気的要因
電源の影響
電源が安定していないと、正常な電力を届けられず、ノイズ発生や不安定な動作につながります。あまりにも当たり前な事実ではありますが、だからこそ見落としがちなポイントです。製品設計は、試作品を何度も作り実験を繰り返すのが日常です。試作品に想定とは違う動作が現れた際、原因追及を行うわけですが、どこを調査しても原因がわからずお手上げ。
そんなとき、ふと電源装置に目をやると、電源に求められるスペックが足りていなかった、といったケアレスミスが起きることもあります。試作時に見つかればまだよいですが、お客様とのすり合わせがうまくいかず、お客様のシステムに組み込んでからこういったミスが露呈すると、対策が困難になり得ます。モータのみならず、電気機器を稼働させるには必要なスペックを満たした、安定性のある電源が必須です。
電磁波干渉
モータが回転するためには、内部のコイルにおいて電流がいったりきたり(スイッチング)する動作が必要です。これにより、高周波のノイズが空間に放出されることは避けられません。さらに、ブラシ付きモータの場合は、電流の流れの切り替えを物理的なブラシによって行うため、ブラシと整流子との接触時にスパークが発生します。これも電磁波の要因となります。すなわちモータは電磁波とは切っても切り離せないものであり、その影響を考慮することは重要です。
一方、モータは電子回路を搭載しているものも少なくなく、自身の放出する電磁波によって、その電子回路が誤作動を起こすこともあり得ます。電磁波を与える側、受ける側、両視点での注意が必要であることがわかります。
アース不良
適切にアースが接続できていない場合、静電気や電磁ノイズを逃がすことができず、リード線や、電子基板上の信号の通り道にノイズが乗っかってしまい、本来届けるべき信号が阻害されることがあります。信号伝達先の機器に必要な情報が届かず、正常な動作ができず、機能不全にもなり得ます。
その他の要因
上記に上げた例は、一例に過ぎません。具体的なモータの仕様、システム全体の仕様ごとに、個別に配慮しなければならない点もあり、モノづくりの奥深い点でもあります。
例えば、今までは問題なかったのに、モータと電源をつなぐリード線の長さを変えたことで、ノイズの発振周波数が変わり、システム内のある装置に悪影響を与えてしまう、といったことも起こり得ます。
また、アースは製造工程でも重要です。作業員や作業デスクなどにアース対策ができていないと、工程中に静電気で部品を破壊してしまったり、製品は正常なのに、検査設備に影響が起きて検査結果に異常が出たり、といったこともあるので、環境確認も大切です。
ノイズの測定方法
モーターノイズの測定技術
測定対象によって様々な方法があります。いくつか例を挙げてみます。
騒音測定
音圧レベル(Sound Pressure Level)
測定対象から、ある一定の距離における音圧レベルです。測定対象と測定機との位置関係で測定値が変わります。そのため場合によっては、モータメーカとユーザ間で測定条件を取り決めることが必要です。私たちが一般的に耳にする、「dB(デシベル)」で表される騒音値は、この測定方法で測定したものです。
音響パワーレベル(Sound Power Level)
測定対象の周囲に複数マイクを設置し、音源が放射する音の全エネルギーを測定する手法です。こちら測定値は、測定方法によらず変動しません。
振動測定
加速度ピックアップ
測定対象に直接貼り付けるタイプの接触式測定機です。当然ながら測定機自体に質量があるため、非常に繊細な測定を行う場合は、測定値に影響を及ぼす可能性があります。
レーザードップラー式測定機
レーザによる、非接触の測定器です。測定対象に照射したレーザーの反射光を読み取り、その周波数の変化を検知することで、振動を測定します。
電磁波測定
アンテナ+ EMIレシーバ
周囲に発生する電磁波をアンテナでキャッチし、レシーバで計測を行う方法です。製品や用途によって規格がそれぞれ定められており、規格値を超えるかどうかで合否判定を行われます。
※EMI:Electromagnetic interference (電磁波干渉)の略
測定時の注意点
測定は、測定する環境によって結果が変わることがあります。特に騒音測定・電磁波測定は環境構築が重要で、多くの場合専用の測定室が必須となります。今みなさんがいる空間にも、目に見えないたくさんの騒音・電磁波(話し声、足音・スマホの電波など)が飛び交っていることはご存じの通りです。
この影響をなくすために、無響音室・電波暗室といった専用の施設が必要となります。安価なものではないため、測定専門機関で設備を借りたり、測定依頼したりするなどといったことも行われます。
測定データの解析方法とその重要性
騒音測定値を例に挙げてみます。「50dB」、「80dB」など単純な数字も指標としては重要ですが、騒音を低減するためにどうしたらよいかを検討するために、解析技術が使われます。物質から発せられる音は、通常様々な音の合成となっており、測定された騒音がどんな音の集合体なのか。これを解析することはとても重要です。
周波数解析機能が備わった測定機を使うと様々な解析が可能です。例えば、測定された音の中に、軸1回転ごとに1回ピークを持つ音と、4回ピークを持つ音が騒音値のほとんどを占めているな、といったことを知ることができます。これはそれぞれ、ロータの重さの偏り、4スロットモータの電流切替数、と関連があると推測できます。このようにして原因を探り対策を打っていくために、解析技術が使われます。
モータノイズ対策の具体的な方法
大前提として、ノイズをゼロにすることは不可能です。限りなく影響を小さくすることを目的に、対策をそれぞれ適用するといった姿勢となります。
ハードウェア対策
振動対策をとしてよく用いられるのは、防振ゴムの使用です。モータをマウントする箇所に防振ゴムを設置し、振動の伝播を遮断するという手法です。共振対策の場合は、部品の材質を変更して比重を変え、重量を変えることで共振周波数をずらすといった手法もあります。
電気的対策
一般的にノイズ抑制には、コンデンサ・インダクタなどを使って、フィルタ回路の導入が検討されます。現状発生しているノイズがどのようなものであるかをよく見極め、適切な部品選択が必要です。また、電流切替によるスイッチングが原因でノイズが発生している場合は、モータを構成する磁石の材質や着磁仕様を見直すことも、改善につながる場合があります。
その他の対策
モータを使用する環境によっては、予期せぬ問題が発生することがあります。
高温高湿環境
サビ発生や部品の膨張等により干渉が発生、回転が阻害される
ゴム製品のある環境
ゴムから発生する硫黄ガスにより電子部品が腐食、信号伝達に支障が起きる
想定外の負荷でモータを使用
推奨使用範囲を超えた高負荷での連続運転による、内部部品の劣化で電流が乱れる
こういった環境の影響は、事前にわかっていれば対策できますが、過去例のない初めての使用方法の場合、想定外のこともあり得ます。事前の検討で問題点を洗い出すことはもちろんのこと、実際使われる環境での耐久試験などを行い、本当に問題が起きないかを早期に確認することが大切です。
モータのノイズにお困りの方はユニテックまでご相談ください
弊社では、日々の開発業務で様々なノイズ測定・解析を行っております。蓄積された経験値をもとに、お客様へ最適な解決策のご提示が可能です。ぜひご相談ください。