ほとんどのモータには永久磁石が入っており、回転運動のためになくてはならない重要な役割を果たしています。その影響力は、回転数、トルク、電流値などの基本的な性能を決定づけるほどであるため、モータ設計の初期段階から磁石の選定を行うことが多いです。今回は、永久磁石の種類や特徴について詳しく説明していきます。

磁界の形成

モータの回転運動は、磁石と電磁石との引力・反発力を利用して実現されます。この引力・反発力は、永久磁石がつくりだす磁界(磁力が影響を与える空間)に対し電磁石が相互作用することにより生み出されます。このことをイメージでつかむために、一つ想像してみましょう。小さな直方体の磁石を一つ、机に置くとします。別の磁石を手に持ち、机の磁石のN極に、手に持った磁石のN極を近づけてみます。すると、机の磁石は反発し、離れるようにスライドしますね。

今度は、S極を近づけてみます。すると机の磁石はある距離で手持ちの磁石に引き寄せられ、くっつくと思います。…至極当たり前のことを説明しましたが、実はこれが、モータの回転原理そのものなのです。

もう少しイメージを膨らませてみましょう。先ほどの机の磁石は直線的な運動をしました。先ほどの実験を、今度は、円筒の内側(例えばセロテープのようなリングの内側)で、内壁に磁石をおいた状態でやってみましょう。内壁に置かれた磁石のN極に、手で持った磁石のN極を近づけていくと、円筒の内側にそって磁石が移動します。円筒の中を回るように動きますよね。まさに、「回転運動」が形成されました。これがモータの回る仕組みの基本イメージです。

では実際のモータはどうなっているのか。まさか手で磁石を動かすわけにはいきませんので、手の代わりにコイルによる磁力を使用します。コイルは、電流を流すと磁石になる「電磁石」の性質を持っています。コイルに流れる電流をコントロールすることで、N極・S極の向き、磁力の大きさをコントロールできますので、手で磁石を近づけることと同等の影響、物体を移動することなく実現可能です。

永久磁石によって形成された磁力の及ぶ空間=磁界に対し、コイルによる磁力を作用させることで、永久磁石を動かす。先の例をさらに発展させると、この永久磁石を複数用意し、円筒の内側に距離をあけて接着剤で固定、円筒に蓋をするように板を取り付け、中心に軸を設置、軸をベアリングなどの軸受けに通せば、立派なモータが完成します。円筒の内側の電磁石の磁力を制御することで、永久磁石が力を受け、回転する。これがモータの回転原理を理解する一つのイメージです。

そして、このコイルに流す電流によって、電磁石の磁力が変化しますので、永久磁石を動かす力=回転力(トルク)を変化させることが可能になります。永久磁石による「磁界」とコイルに流れる「電流」が相互作用し、回転力(トルク)を生み出すことができるのです。      

(モータの中には、磁石の力を使わずに回転する特殊なものもありますが、一般的ではないため例外とし、今回は扱いません)

効率と構造の簡略化

ここまで、永久磁石がモータには不可欠だ、というニュアンスで話を進めてきました。ですが、永久磁石を使わなければモータは成立しないのかというと、そうではありません。先ほども説明したとおり、電磁石というものがあります。永久磁石の代わりに電磁石を設置すれば、モータを制作することは可能です。

しかし、電磁石の機能をもたせるためには、電流を流すためのさまざまな部品、構造、電源などが必要となります。永久磁石と電磁石は、同じ機能を持つとはいえ、電磁石の構造はとても複雑です。すなわち、永久磁石を使うことにより、外部からの別の電源で電磁石を用意する必要はなくなるので、構造の簡略化につなげることが可能といえます。

モータ種別の永久磁石の役割事例

ブラシ付きDCモータ

ブラシ付きDCモータは、前々項で例に挙げた構造とは対照的に、永久磁石は固定(ステータ)で、電磁石が回転する(ロータ)構造をとります。ロータ部に巻かれたコイルが電磁石の役割を担いますが、コイルに電流を流すことで永久磁石による磁界と相互作用を発生し、トルクを発生、回転させます。

回転を続けるには電磁石の磁極を変化させる、すなわち電流の向きを切り替える必要があります。この役割を担っているのがモータの名前にも入っている、ブラシという部品で、構造を特徴づける部品となっています。

ブラシレスDCモータ(BLDC)

先ほど想像上で実験をしました。そこで紹介した構造がまさにこのブラシレスDCモータと同じものとなります。永久磁石はロータに設置され、ステータ側のコイルの電流を制御することにより、磁極をコントロールしてロータを回転させます。電流の切り替え制御は電子回路によって行われるため、ブラシは存在しません。

そのため、ブラシが消耗して寿命を迎えるブラシ付きDCモータよりも寿命・耐久性に優れたモータです。反面電子回路(モータドライバ)が必須となるため、コスト的にはブラシ付きDCモータの方に軍配が上がります。

ステッピングモータ

ブラシレスDCモータと同様、ロータに永久磁石が組み込まれた構造を持ちます。ブラシレスDCモータと異なる点は、その永久磁石の構造です。ブラシレスDCモータでは、多くても極数は16までですが(極数:設置された永久磁石のN極・S極の数の合計のこと)、これに対し、ステッピングモータは構造面で工夫がなされ、極数が100などという桁違いに多い極数を実現しています。

これにより、ロータを小刻みに回転させることが可能となり、精度の高い位置決めが可能です。その特徴を活かし、産業用ロボットやプリンタなどの位置制御に用いられます。

永久磁石の素材

レアアース磁石

希土類元素を主成分とする強力な永久磁石です。ネオジム磁石(NdFeB)、サマリウムコバルト磁石(SmCo)の二種類があります。

ネオジム磁石

現在最も強力な永久磁石として広く利用されている磁石です。強力であるがゆえ、小型・軽量で必要な磁力を発生させることができます。高性能機器の開発に使われることはもちろんですが、モータの軽量化・小型化という観点でも重宝されます。ただし下記のようなデメリットもあるので、状況に応じた使用法が必要となります。

  • 高温に弱い(温度が上がると磁力が低下する=減磁が発生する)
  • 腐食しやすい(表面にメッキなどのコーティングが必要)
  • 希少資源のため、供給が不安定になることがある
    (実際過去には高騰し、コスト削減のためにモータ業界では脱ネオジムの動きが取られたこともあった)

高性能モータや電子機器に不可欠な素材ですが、資源の確保やリサイクルの技術開発が今後の課題となっています。

サマリウムコバルト磁石

ネオジム磁石の磁力は圧倒的であり、磁力の大きさでは及ばないものの、強力な部類に入る磁石です。ネオジム磁石より優れている点として、下記が挙げられます。

  • 高温に強い(高温減磁しない)
  • 錆びにくく、耐食性に優れるため、過酷な環境でも使用できる

反面、コバルトの価格が高く、ネオジム磁力よりも高価であるため、価格・磁力より環境対応が優先される場合に採用されます。

アルニコ磁石

アルニコ磁石は鉄とアルミ、そのほかコバルトやニッケルを原料に製造される磁石です。高温でも減磁しない、割れにくく機械的強度が高いといった特徴を持ちます。長い間、磁石の中心的存在でしたが、主原料であるコバルト、ニッケルの供給安定が難しいこと、さらに価格も不安定であったために、現在は安価で入手性の高いフェライト磁石にとって代わられています。しかしながら、外部温度によって磁気特性が変化しにくい特徴を活かし、計器類においては根強い需要が残っています。

フェライト磁石

現在最も主流の磁石です。豊富に存在する酸化鉄を原料としているため、原価が安く、製造コストも安価で安定的に供給が可能です。磁力は比較的低いですが、保磁力が高いので減磁しにくく、汎用性は高いです。錆にも強いため使用場所を選ばず、使い勝手の良い磁石です。

永久磁石各素材の開発の歴史

先に上げた4つの磁石の関係性を、時系列的に簡単に紹介します。

■1938年:アルニコ磁石が開発される
20世紀前半では最も強力な磁石で、スピーカーや測定機器に広く使われました。

■1952年:バリウムフェライト磁石の開発
フェライト磁石自体はもっと早くに開発されていましたが、このバリウムフェライト磁石により本格的に工業用に使われ始めます。アルニコ磁石の弱点である、外部磁場により磁力が低下しやすい点をカバーできる点と、安価で安定した磁力を持つ点で優位性が高く、広く普及し始めました。

■1976年:サマリウムコバルト磁石の登場
1960年代に開発されたサマリウムコバルト磁石が、1976年に高性能磁石として工業化に成功。フェライト磁石よりも強力な磁力を求める用途(航空宇宙、軍事、医療機器など)で利用されていきます。しかし、コバルトが高価で供給が不安定だったため、さらに強力で低コストな磁石の開発が求められていました。

■1984年:ネオジム磁石の台頭
サマリウムコバルト磁石と比べ、さらに磁力が強く、コストも抑えられたため、一気に普及しました。ハードディスク、電気自動車(EV)、風力発電、ハイパワーモータなど、現代の先端技術を支えています。ただ、レアアースの供給問題(特に中国の独占)や価格変動が課題となっています。

現在では、ネオジム磁石が主流ですが、高温環境ではサマリウムコバルト磁石、コスト重視ならフェライト磁石、特殊用途にはアルニコ磁石が使われ続けており、用途によって使い分けがなされています。

永久磁石の製造法

焼結磁石

磁力発生のもとである磁粉をプレス成形した後、焼き固めたものです。磁粉の塊のため、高い磁力をもたせることができます。反面、陶器のように割れ・欠けが発生しやすいデメリットもあります。

ボンド磁石

磁粉を樹脂やゴムと混合し、成型したものです。成型機をつかって複雑な形状を作ることができるため、形状自由度の高い設計が可能となります。

永久磁石選定のポイント

必要な磁力(トルク)

モータ設計で最も重要視される要素の一つが、「必要トルクはいくつなのか」というものがあります。モータの役割は、回転運動によって仕事をさせることですので、どの程度の仕事をさせるのか、すなわちどの程度のトルクが必要なのかを考えるのは、必須項目です。

お客様の用途を確認し、必要トルクを設定したら、それを実現するための構造、部品選定に入ります。ここまで説明してきた通り、永久磁石の磁力は発生トルクに非常に大きく影響しますので、必要トルクに見合った磁石を選定することになります。

動作温度環境

モータを使用する環境を把握することは、材料選定の際には非常に重要なポイントです。上記で解説した通り、例えばネオジム磁石は高温時に減磁してしまうリスクがあります。そのことを何も考慮せずネオジム磁石を採用し、必要トルクだけを考えて設計を進めるとどうなるでしょうか。

トルクは要求を満たせたとしても、実際にモータを使用する環境が非常に高温で、高温減磁を起こし必要トルクを出力できない、といったことが起こってしまう恐れがあります。実際の設計現場でも、コミュニケーションミスや思い込みなどでこういった事態は起こり得ます。十分な確認が必要です。

コストと量産性

モータ開発現場に於いて、性能の良い磁石を採用すれば、要求特性を満たせる、といった場面が発生することがあります。しかしそういった磁石はコストが高かったり、量産工程での扱いが難しかったり、総合的に採用は難しいということがよくあり、開発が容易には進まないことは日常茶飯事です。高い部品を使えば高い性能のモータが作れるのは当たり前ですが、それでは収益性を確保できません。

そんななかで、高級な磁石は本当に必要なのか。もう一段階グレードを下げた磁石を使って、巻線や電子回路などの工夫で磁石の性能を補うことはできないか。磁石の形状や配置など、新しい構造を採用して特性を上げることはできないか。こういった検討を重ね、別の正解を探しだし、コストと量産性を両立させていく。製品を世に送り出すにはこういった努力が日夜重ねられています。

形状の自由度

モータの構造や使用環境によっては、特殊な形状の永久磁石が必要になる場合があります。筆者の経験をここで一つ記載させていただきます。

BLDCモータを使ったファンモータ開発において、設計終了の間際にお客様から追加要望が入り、モータ使用時の環境温度上限を+80℃まで対応してほしいという要望を受けたのです。もちろん他にも必要特性の項目があり、それを満たすように開発を進めていたのですが、この追加要望が非常にネックとなりました。というのも、トルクや電流値の要望を満たす設計を進めた結果、内部発熱が非常に高くなり、当初使っていたリング状のゴム磁石では+80℃の環境ではゴムの膨張により干渉が起きてしまう、という課題が見つかったのです。

そこでゴムではなく、膨張の心配がないプラスチック成形の磁石に変更。さらに組立工程時の効率アップのため、単なるリングではなく一部に突起を付けた形を採用。これにより課題を解決しました。プラスチック成形が可能な磁石を使うことで、形状の自由を得て、課題を解決した事例となります。

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