ACモータは、大別すると「同期モータ」、「誘導モータ」の2つ分けられ、同期モータの中でも永久磁石を使うものPMモータと呼んでいます。今回は、PM(同期)モータを取り上げます。PMモータはどんな原理で動作し、どんな構造をしているのか、一緒に見てきましょう。

※PM:Permanent Magnetの略。永久磁石。

原理と基本構造

PMモータは、ほとんどのモータと同様、永久磁石と、電磁石との相互作用によって回転運動を生み出すモータです。回転する部品(ロータや回転子と呼ぶ)には永久磁石が設置されており、土台側(ステータや固定子と呼ぶ)には巻線が設置されています。

巻線に電流を流すことで、電磁石の機能を有し、ロータに設置された永久磁石との引力・反発力を生じることで、ロータが動きます。巻線に流す電流の向きをタイミングよく切り替えること(=回転磁界)により、電磁石のN極・S極を変化させて引力・反発力を切り替え、ロータの回転運動を生み出します。

ACモータにおいて、電流の切り替えタイミングは、AC電源の周波数で決まるため、回転数はその周波数に依存します。電源の周波数をインバータなどで制御すれば、回転数をコントロールすることも可能です。「同期」モータと呼ばれる所以は、ここにあります。周波数によって決まる「回転磁界の速度」と「ロータの速度」が一致する(=同期する)というところが名前の由来といわれています。

我々のブログをお読みくださっている読者様の中にはお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、DCブラシレスモータと「大枠」の原理・構造は同じといって差し支えありません。とはいえ、もちろん全く同じものではなく、電源が違うことで電圧・電流などももちろん変わり、これが影響して使われる内部部品・構造に大きな違いが生じます。参照すべき安全規格も変わるため、電子部品の選定基準や空間絶縁距離も、直流電源とは異なる考え方が必要となります。

回転原理、構造概念としてはかなり類似しているというのは間違いありませんが、設計開発、製造工程、使い方の視点では、全くの別物といえます。例えば、DCモータを開発してきた人間がACモータを開発することになった場合、様々な規格・法律の勉強が必要でとなり、開発期間に何倍も要することになると思います。(筆者経験談)電源の違いにはそれほど大きな違いがあり、とても影響力が大きいことがわかるかと思います。

誘導モータとの違い

もう一つのACモータである誘導モータとPMモータとの最も大きな違いは、回転原理にあります。PMモータは、永久磁石と電磁石との引力・反発力を利用して回りますが、誘導モータの回転力は、ステータの回転磁界によってロータに発生する誘導電流がキーとなります。

このロータは導体で構成され、その中を誘導電流が流れることにより、ロータが回転する方向にローレンツ力が発生し、回転力を生じます。この回転は、回転磁界に対して若干遅れて発生するため、回転磁界の回転数と一致しません。そのため、非同期モータとも呼ばれます。

※ローレンツ力:フレミング左手の法則によって導かれる力

PM(同期)モータを使用するメリット

高効率

先ほど、誘導モータのロータには誘導電流が流れるという話をしました。この電流は回転に必要なものではありますが、ステータを流れる電流が回転磁界を生成し、空間を経由し、形を変えて別の場所に移動した電流といえます。エネルギーが形を変えるときには、すべてを丸ごと目的のものに変えることはできず(この場合はステータの電流→誘導電流への変換)、ほとんどの場合、一部は熱となってしまいます。この熱は回転には使われないため、ロスとなってしまいます。

永久磁石を使うPMモータは、誘導モータのようにロータに2次電流が流れない原理・構造となっているため、上記のようなロスが発生しません。そのため、誘導モータに比べて高効率といえます。

コンパクト

誘導モータのロータは、その回転原理を満たすために導体で構成される構造物(カゴ形や、アルミダイカストなどで構成される円筒状のもの)が必要となるため、どうしてもある程度の体積が必要となります。それに比べ、回転原理の異なるPMモータは、永久磁石によって回転するため、ロータに大きな体積を必要としません。そのためサイズの面では大幅な小型化・軽量化が可能です。

高トルク

永久磁石を使用するということは、その磁力をそのままトルクとして利用できることにつながります。使用する磁石の種類にも当然関係しますが、磁石を使わないモータに比べ効率的に高トルクを発生することが可能です。

特に低速時に高トルクを発生できる点は、誘導モータとの大きな差別化ポイントです。「体積あたりのトルク」を表すトルク密度という指標がありますが、コンパクトかつ高トルクという2つの優位性をもつPMモータは、一般的に高トルク密度のモータであると評価されています。

制御がしやすい

誘導モータは非同期モータであると説明しましたが、回転速度を変える際も、回転磁界の変化に対して、ワンテンポ遅れて回転数が変化します。このため制御の観点では、思い通りの動作を行わせるには不向きといえます。

これに対しPMモータは、回転磁界に同期した回転が可能であるため、回転磁界の周波数を変化させることで速度変化の制御を容易に行えます。十分なトルクを発生できるよう設計しておくことで、負荷の大きさに関わらず一定の回転速度を保つことも可能なため、高精度な位置決めが必要な用途にも向いています。

PM(同期)モータの主な用途

電気自動車(EV

高効率でコンパクトな設計が求められる電気自動車の駆動モータに、PMモータは広く採用されています。小型化・軽量化と、高効率なモータ駆動により電力消費を抑えることは、航続距離を延ばすことにつながります。また、同期モータとしての応答性の良さは、加減速性能の高さにも影響を与えます。実際に、テスラ社や日産自動車の電気自動車にもPMモータは採用されています。

さらに近年は、モータメーカが電気自動車用のモータ開発に参入することも増えてきており、NidecのE-Axleなどはその先駆けで、中国の自動車メーカに採用されています。電気自動車は現在モータ業界において重要な分野であり、中でも中国企業の開発スピードは凄まじいものがあります。我々としても注目するところです。

産業用ロボット

産業用ロボットの関節部など、精密で安定した動作が必要な箇所にPMモータが採用されています。小型でありながら高トルクを発生できる利点を活かし、ロボットの中の限られた狭いスペースで力強い動作を実現可能です。また、エンコーダなどのセンサー機器と組み合わせることにより、関節の正確な位置・速度制御が可能となるので、活躍の場は広く、汎用性も高いです。様々な工場で活躍しています。

家電製品

PMモータは、省エネ性やデザイン性が求められる家電製品でも活躍しています。効率の高さを活かして電力消費量を削減し、小型設計が実現できる利点を活かし、家電の軽量化やデザイン性の向上を可能にしています。

我々もよく知っている通り、家電業界は省エネ競争が激しく、特にエアコン、洗濯機、冷蔵庫、掃除機などモータが使われる機器はその消費電力の高さから注目されることが多いです。PMモータのさらなる進化が期待されています。

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