トルクリップルとは       

「トルク」とは、回転する力であり、モータが発揮する力そのものです。「リップル」とは脈動・波を意味し、一定ではない、大きくなったり小さくなったりする、ということを示しています。すなわちトルクリップルとは、「回転力の変動」と表現すると理解しやすいかもしれません。

より直感的に考えてみましょう。この記事を読んでいる皆さんの多くは、おもちゃに使われているモータの軸を手で回したことがあるんじゃないかな、と思います。そのときの感触を思い出してみてください。軸をつまんで回転させていくと、ある程度の角度までは、押し戻されるような力を感じると思います。

しかし、あるところを境に、力を加えなくても軸が勝手に周り、ピタッと止まる。モータの軸の位置によって、軸に発生する回転力が変動していますね。この変動が、トルクリップルのイメージに近いです。モータが一定の回転数で回っているときでも、回転力は一定ではなく変動しており、場合によってはあらゆる影響を引き起こします。どのような原因から起きている現象なのか、どのような影響があるのか、細かくみていきましょう。

トルクリップルの主な原因

コギングトルク

先に例に挙げた、停止時のモータにおいて、軸の位置によって発生する力、これがまさにコギングトルクです。永久磁石を使ったモータにおいて、電流が流れていない状態でも発生するトルクです。永久磁石の磁力が、コイルの鉄心と引き合うことによって、周期的なトルク変動を引き起こす現象です。モータが回転中にも影響を及ぼしますが、回転数が低いときほど大きく影響し、回転数が上がり慣性が大きくなるにつれ、影響は小さくなります。

電流波形の歪み

モータ電流は、回転力を発生させる源です。この電流に歪みがあれば、それはそのまま回転力の変動につながることは容易に想像ができると思います。電流を形成する要素はたくさんあります。電源の安定性はもちろんのこと、コイルの抵抗値、巻数、永久磁石の磁力による逆起電力など、多数の要因を加味した上で、適切な電流波形になるよう設計が必要だといえます。

磁極の配置・形状・数

モータの回転は、永久磁石とコイルによる磁力が引き合う・反発する力によって形成されます。この磁力の相互作用は、永久磁石の磁極ごと、コイル鉄心のスロットごとに発生します。磁極・スロットの配置・形状・数が変わると、磁力の作用の仕方が変わりますので、回転力の変動に違いが出てきます。すなわち、これらの要素はトルクリップルに影響を与えます。

トルクリップルが及ぼす機械的影響

振動の発生

トルクリップルが顕著な場合、回転する力が強かったり弱かったりを周期的に繰り返す状況となり、目に見えて振動が発生します。モータ開発の現場では、悪条件が重なり、試作品などでこのような状態が起きることは、まれにですがあります。その場合はどちらかというと、振動というより振動から発生する音で気がつくことが多いです。これは例えるなら、車のアクセルをベタ踏みしたり足を離したりを繰り返しているような状態であり、平均速度が60km/hだったとしても、瞬間的に100km/hになったり20km/hになったりという状態で、とてもまともな挙動とはいえません。

使用時に影響がない程度にまで抑えることが基本ですが、トルクリップルによる振動は完全にゼロにすることは難しく、特に精密機器や振動を嫌う用途(例えば、医療機器や産業ロボット)での使用においては、重要な課題となります。

位置決め精度の低下

振動によって位置決め精度が悪化する、ということももちろんありますが、そもそもトルクが変動するという性質上、細かな位置決めを確実に行うというのは難しいという側面があります。例えば半導体製造装置やロボットアームなど、求められる精度レベルが高い場合、トルクリップルによる影響が大きな課題となります。

摺動部の摩耗促進

トルクリップルによるトルクの変動は、ロータやシャフトに不均一な力を与えることにつながります。これにより、軸受けやギアといった摺動・摩擦が発生する部品に負荷がかかります。また、ブラシ付きDCモータであれば、ブラシとコミュテータ間の接触の具合にも影響を与え、摩耗が加速することもあり得ます。この結果、寿命が短くなる、メンテナンス頻度が増えるなどという影響が発生します。

トルクリップルが及ぼす電気的影響

ノイズの増加

モータが安定した回転速度を維持するためには、一定の回転力を発生し続ける必要があります。トルクリップルはこれを阻害する要因です。トルクリップルの影響を乗り越えて安定した回転力を発生させるには、トルクの変動を補うために瞬間的に大きな電流を流すなど、電流を増減させることになります。この電流の変動が電流リップルや、ノイズ発生となって現れます。

エネルギー効率の低下

ノイズや電流リップルは、回転に不要な電流を消費してしまうため、エネルギー効率の低下につながります。また、トルクの変動はコイル鉄心内の磁束を周期的に変化させることにつながり、微小ではあるものの鉄損(ヒステリシス損失や渦電流損失)の増加にもつながります。

制御系統の検知誤差の悪化

例えばエンコーダが設置されたモータにおいて、トルクリップルの影響で瞬間的に回転が不安定になると、エンコーダの光学センサの光検知が揺らいでしまいフィードバック信号が適切に取得できない恐れがあります。フィードバック機能が適切に動作せず、意図した制御ができなかったり、応答性が悪化したりするなどの悪影響も考えられます。他にも、ノイズの発生によって制御系統の検知信号が適切に送信されないなどといったことも起こり得ます。

トルクリップルの改善方法

モータ設計の最適化

磁極の配置・形状・数がトルクリップルに影響すると先に述べました。新規モータ開発の際には、この構造の最適化が重要となります。現物での試作検討では時間・費用がかかってしまうため効率が悪く、実際のモータ開発現場では磁気解析ソフトなどでシミュレーションを実施することがメジャーかと思います。

磁極数・鉄心の形状・配置などを変えたモデルを複数パターン用意し、それぞれのモデルがどのようなトルクリップルになるのかを算出、ある程度目処を付けたうえで試作品を制作する、といった流れが多く行われます。磁極とコイル鉄心数のコンビネーション、ステータ形状、ロータ形状、磁石配置など、様々な要素をいくつものパターンでシミュレーションし、最適値を算出します。

形状検討では、ステータの歯形形状やスキュー構造(ステータやロータの歯を斜めにすることで、回転時の磁力の変動を緩やかにし、コギングトルクを抑制)や、スキュー着磁(永久磁石を斜めに配置、もしくは着磁を斜めにすることで磁力変動を緩やかにし、コギングトルクを抑制)なども効果的です。

適切な素材の選定

近年は特に省エネ思考ということもあり、モータの電力効率を追求することがどのメーカでも課題となっており、ユーザ様からも直接期待の声をいただくことは珍しくありません。モータ効率を上げるには、永久磁石の磁力を大きくすることが有効な手段なのですが、ここで注意すべきことがあります。

コギングトルクの観点では、磁力は小さいほうが有利な場面が多いのです。効率ばかりに目を向け、極端に強い磁石を使うと、コギングトルクがものすごく大きくなってしまい、まともに回転しないということが起こり得ます。

これは、筆者が実際体験したことなのですが、お客様の求めるモータ効率が非常に高いものだったため、設計的に、コスト的に成り立つかどうかは一旦無視して、極端に磁力の強い磁石を発注し、試作モータを製作したことがありました。組み立てる際に、あまりの磁力に部品が自分の手から離れ、吸い込まれるように規定の位置に設置されました。少し間違えば手を挟んで怪我しかねないほどの磁力です。

これは一体どんな特性になるのかと楽しみに実験を進めましたが、あまりの磁力にドライバの調整に四苦八苦。やっとのことでなんとか回りましたが、トルクリップルがひどく、机に固定して低速で回しただけなのに机に振動が伝わり、実験室中に音が響き恥ずかしい思いをしました。トルクリップルの重要性を認識し直す経験でした。

ある1点のみに着目しては、設計は成り立ちません。必ず、バランスを考えることが重要です。目標特性を満たすための適切な素材選定は重要ですが、他の観点への影響も忘れず考慮する必要があります。

駆動回路の改良

機構部品、磁気回路関係の話を多くしてきましたが、制御系で改良できることも多くあります。トルクリップルを吸収するために、電流値の増減、デッドタイム(電流をOFFする時間)の調整、外部装置を利用して、微細な回転数変動や、現在位置などをセンサで検知、フィードバック制御してリアルタイムで回転数や位置を補正など、回路制御で様々なアプローチが可能です。ただし、先に上げたノイズなどの影響を加味した制御が必要となり、調整は簡単とはいえない場合が多いです。

また、当然ですが駆動回路で何でも可能というわけではなく、機構部品の構成によっては求める調整ができない場面も多くあります。機構部品、駆動回路、両面での改善を試したほうが、問題解決は早いです。

モータのトルクリップルでお困りの方はユニテックへご相談ください 

ユニテックでは、様々なタイプのモータを取り揃えております。お客様の課題を解決できるソリューション提案が可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。