IP仕様やIP規格といった言葉を見たことがある人もいると思います。最近はスマホのスペックにも記載されていることが多く、「これなんだろう?」と気になった方もいるのではないでしょうか?このIPとは「Ingress Protection」の略です。直訳すると「侵入保護」となりますが、水、チリ、ホコリの侵入を防ぐという意味で使われます。すなわち、IP仕様とは、防水・防塵機能を有していることを意味します。

私たちの身の回りには、スマホ以外にも、防水機能を備えたさまざまな機器やデバイスが増えてきました。腕時計、イヤホン、お風呂やアウトドアで使えるスピーカーなどです。こう考えると、最近発達した技術のように見えますが、工業製品においてはそんなことはなく、モータにおいては水を運ぶポンプを代表として、昔から防水関連の対応を求められる場面が多くありました。水や湿気の影響を受けやすい環境では、適切な防水設計が製品の寿命や安全性を大きく左右します。本記事では、モータ設計における防水対策について詳しく見ていきます。

防水・防塵保護等級を示すIP規格

先ほども挙げた、IP規格に関して詳細を見ていきましょう。IP規格は、「IP58」「IP68」のように、「IP◯◯」という表示がなされ、2つの数字に意味を持たせています。1つ目の数字が防塵性能(チリ、ホコリ、砂などの固体に対してどれだけの保護機能をもつか)の等級を、2つ目の数字が防水性能(水に対してどれだけの保護機能をもつか)の等級を表します。

「IP58」と書かれた製品の場合、防塵性能は5級、防水性能は8級であることを意味します。また、「IPX7」のように、Xが使われることもあります。このXは等級を有していないことを意味します。すなわち、防塵だけ、防水だけの等級を示す場合に「X」が使われるということです。

具体的に、それぞれの等級がどの程度の保護機能を持つのかを下表に示します。

第一記号(0~6)固形物・粉塵に対する保護等級

等級コード保護の内容規格を謳うための試験方法(概要)
0IP0X保護なしテストなし
1IP1X手からの保護直径50mm以上の固形物体が内部に侵入しない
(テストジグで侵入できないことを確認)
2IP2X指からの保護直径12mm以上の固形物体が内部に侵入しない
(テストジグで侵入できないことを確認)
3IP3X工具の先端などからの保護直径2.5mm以上の固形物体が内部に侵入しない
(テストジグで侵入できないことを確認)
4IP4Xワイヤーなどからの保護直径1.0mm以上の固形物体が内部に侵入しない
(テストジグで侵入できないことを確認)
5IP5X粉塵からの保護機器の正常な作動に支障をきたしたり、
安全を損なう程の料の粉塵が内部に侵入しない
(粉塵が舞う空間にて試験)
6IP6X完全な防塵構造粉塵の侵入が完全に防護されている
(粉塵が舞う空間にて試験)

第二記号(0~7)水・液体に対する保護等級

等級コード保護の内容規格を謳うための試験方法(概要)
0IPX0保護なしテストなし
1IPX1手から垂直に落ちてくる
水滴によって有害な影響を受けない
規定の高さからの水滴滴下
内部に水が侵入しない
2IPX2指か垂直より左右15°以内からの
降雨によって有害な影響を受けない
規定の高さから15°傾斜させた状態で水滴滴下
内部に水が侵入しない
3IPX3工具垂直より左右60°以内からの
降雨によって有害な影響を受けない
規定の高さより鉛直方向±60°の範囲で散水
内部に水が侵入しない
4IPX4いかなる方向からの水の飛沫に
よっても有害な影響を受けない
規定の距離から全方向からの散水
内部に水が侵入しない
5IPX5いかなる方向からの水の直接噴流に
よっても有害な影響を受けない
規定の距離から全方向に噴流水
内部に水が侵入しない
6IPX6いかなる方向からの水の強い直接噴流
によっても有害な影響を受けない
規定の距離から全方向に強い噴流水
内部に水が侵入しない
7IPX7規程の圧力、時間で水中に沒しても
水が浸入しない
規定の深さに30分間水没させる
内部に水が侵入しない
8IPX8潜水状態で使用しても水が侵入しない等級7の試験条件よりも厳しいものとするが、
試験条件は当事者間で取り決め
9
9K
IPX9
IPX9K
高温・高圧水・スチームジェット洗浄
にさらされても水が侵入しない
回転する試験体に熱湯を4方向から噴射
内部に水が侵入しない

※防水保護等級9と9Kの違い:どちらも「高圧・高温の水に対する耐性」を示す防水規格ですが、規定の根拠となる規格が異なります。IPX9Kの方が、若干厳しい条件です。
IPX9:IEC 60529規格
IPX9K:ISO 20653規格

参考規格
IEC 60529, EN 60529, IEC 60034-5, EN 60034-5, DIN 40050-9, JIS C0920, JIS C4034-5, JIS D 5020, ISO 20653 など

防水モータでよく使われる防水等級

防水モータが活躍する場面を、具体例を交えて紹介します。粉塵・水にさらされる環境や、屋外に配置される機器、または洗浄が必要だったり、ポンプのように水を扱ったりする機器など、さまざまな条件・環境がありますが、どんな等級でどんな使われ方をするのか、いくつか見ていきましょう。

IP65 / IP66:防噴流モデル

EV充電器

電気自動車の普及の要である、EV充電器。自動車を接続して充電する際には、内部で熱が発生しますので、冷却ファンモータによって熱が外部へ吐き出される構造となっています。外部へ空気を吐き出すという構造上、逆に外部から塵・埃・雨・風が入り込むことは避けられません。

そのため、屋外環境での長期間使用に耐えられる防塵・防水性能を備えた冷却ファンが搭載されています。低騒音・高効率で長寿命のブラシレスDCファンが多く採用されており、EV充電インフラの信頼性向上に貢献しています。

太陽光パネル関連

大規模太陽光パネルには、2つの防水モータが使われます。太陽の動きに合わせてパネルの角度を調整する追尾用モータと、発電した直流電流を交流に変換するインバータ内の冷却ファンモータ。どちらのモータも雨風にさらされるために、防塵防水機能が求められます。

これらの防水モータによって、太陽光発電システムの安定性と発電効率向上が支えられています。意外なところでモータが使われている一例と言えるかもしれません。

IP67:一時的な水没にも対応可能

食品工場

食品工場で使用される防水モータは、衛生管理の厳しい環境での使用を前提に設計されています。食品製造ラインでは、定期的な高圧洗浄や消毒が行われるため、これに対応できる性能を備えたモータが必要です。

IP性能(内部への異物侵入防止)だけでなく、錆び・腐食などへの対策も必要で、ステンレス製の材料や、特殊コーティングが施されたモータが求められ、洗浄液や湿気に強い構造となっています。食品搬送コンベア、ミキサー、ポンプなどの装置に使用され、安定した動作と長寿命を実現しながら、衛生的な環境を維持する重要な役割を果たします。

産業用ロボット

金属粉、樹脂粉、ミスト、水洗いが必要な環境において活躍するロボットには、IP仕様が求められます。最近はダイカスト現場や、研磨工程でもロボットアームの活躍が広がってきており、現場の自動化、半自動化に貢献しています。さまざまな用途に対応できるよう、また、長い期間故障することなく使えるように、丸洗い対応や腐食に強い仕様となっています。

これらの機能を実現するために、IP等級を満たす設計がなされています。ロボットアームには複数のモータが搭載されますが、本体部、手首部、指先部それぞれに求められるIP等級が違うといったこともあるので、コスト面との兼ね合いも考慮し、必要な場所に必要なレベルの保護を与える、などの対応がなされています。

IP68:継続的な水中利用・停止による影響が大きい用途

水中ポンプ

水槽用の水流ポンプから、工場や工事で使われる汚水排水ポンプ、浚渫工事(海 底の土砂をすくい取る工事)で使われるポンプまで、さまざまな水中ポンプがありますが、こういったものは当然ながらしっかりとした防水機能が備わっており、水の侵入をガードしています。

通信基地局

携帯電話の基地局で使われる冷却ファンにも、IP68が求められることがあります。理由としては、「故障してしまうと影響度が高い」という点です。雨風にさらされるため、ある程度のIP対応が必要なことは確かですが、基地局は入り組んだ場所に設置されることも多く、メンテナンスのために足を運ぶのが困難な場合があります。そのため、信頼性を高めておくことで万が一に備えるといった対応が取られることがあります。

IP69 / IP69K:高圧・高温の水流洗浄への対応

製薬工場

製品の安全性と品質を確保するために、製薬業界では厳格な衛生基準が求められます。工場設備は頻繁な洗浄や消毒が必要で、防塵性と高圧水流に対する耐性が求められます。こういった環境でも正常に機能出来る仕様として、IP69が必要となります。

防水モーター設計における注意点

シール部

モータのシャフトやハウジングの接合部に、侵入防止のための防水シール(Oリングやガスケット)を使用する際、材質と圧縮状態が適切になっているかの確認が重要です。

使用される環境も確認し、例えば腐食性のあるガスなどが発生しうる環境では、素材によっては劣化が早まるシール材もあるため、耐候性や耐薬品性を考慮した素材の選定が大切です。また、シール部はそもそも摩耗や劣化しやすい部位でもあるため、交換が容易にできることを考慮した設計をすることも大切です。

軸受部の設計

当然ながら、軸受部にも水や汚れが浸入するリスクがあります。メタル軸受やベアリングを使用する場合、必然的にサビの問題が起こり得ます。構造的に水がかからないような形にすれば問題ない、という解決方法もありますが、IP対応が求められる用途では、腐食ガスにさらされる環境で使用されることも実際多くあります。

その場合、水の影響がなくともガスによるサビや劣化が早い段階で発生し、寿命が短くなることもあります。そのため、防水タイプのベアリングを採用する、腐食に強い素材(ステンレススチールやセラミック)を採用するなども検討が必要です。

熱対策・冷却方式

IP対応のモータは、やはり密閉性が高くなり、放熱性が悪化することがあります。そのため、熱対策を通常よりもしっかり行う必要があります。樹脂製のボディを金属製に変更して放熱性を高める、ボディの形状を工夫して表面積を増やし、冷却効果を高める、ヒートシンクや冷却フィンなどを活用するといった、通常とは異なる設計思考が重要になります。

素材・塗装材料の選定

防水性が求められるということは、必然的にモータのボディに何かしら付着することが想定されるため、防水性と同時に、耐腐食性が求められます。これをクリアするために、素材選定(アルミニウムやステンレス、耐水性プラスチックなどが有利)が重要となります。

また、お客様によっては、ボディに色指定などをされる場合もあるため、その際は塗装材料にも気を配る必要があります。粉体塗装など、腐食に強い方法を検討し、お客様と事前相談をしておくことが重要です。

ケーブル・端子部の防水対策

忘れてならないのは、モータに電源を供給する部分です。モータ自身は完璧に防塵・防水対応となっていても、電源供給部に水がかかってショートしてしまえば意味がありません。防水コネクタを採用する、コネクタ接続部をシリコン剤で塞いでしまうなど、対策方法はいろいろと検討できます。耐腐食性を視野に入れる場合、リード線の被膜材料にも気を配る必要があります。

ドライバ基板も保護が必要な場合がある

例えばブラシレスモータなどの場合、駆動にはドライバ基板が必要です。どのような構成になるかはシステム次第ですが、モータの配置場所近くにドライバ基板を配置しなければならない場合、ドライバ基板も保護することが必要になります。このように、モータ本体だけでなく、周辺も同じように対応が必要な場合があるので、注意が必要です。

基板の保護には、ヒューミシール(耐湿耐薬用のコーティング材)、シリコン樹脂で完全に覆う(シリコンポッティング)、パリレンコーディング(高い耐腐食性を発揮する蒸着処理)など、機構部品とは異なるアプローチもあり、コストと相談しながら必要な対策を検討していくことが大切です。

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